おいしいお弁当

わぁ〜〜〜〜〜崎陽軒シウマイ弁当だ〜〜〜〜〜
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これおいしいんだよな〜〜〜


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おかずはシューマイ、鶏のから揚げ、鮪の照焼き、たまご焼き、かまぼこ、タケノコの煮物、それとデザートに杏子までついてきて盛りだくさん、全体のバランスがよく考えられていてかつ彩り鮮やかでとりどりに満足を与えてくれる。

ごはんもひとつひとつ粒が立っていて口にしたとき舌にお米の存在をひしと感じ、抜かりない。

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まずはどれから食べようか、経木折のショウケースに目が泳いでしまう。

やはりまずはシューマイからだろう。きっとそれがいいはずだ。暗黙のセオリーに従う。

うまい。

まるで小さな爆弾、噛み締めた途端に上品な肉の風味が口腔にとどろく。このシューマイの不思議なところは常温だというのに油が固まっていないところだ。冷えたシューマイを食べると固まった油が口蓋に張り付いてたいへん嫌な思いをさせられるのだがこのシューマイにはそれがない。さわやかでさえある。

キャンディのようにいつまでも口のなかで転がしていたい、そんなシューマイだ。

シューマイの次はなんだ。

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たまご焼きか?
いや待て、焦ってはいけない。

ごはんだ。

俵型に詰められているためごはんとおかずの配分がしやすい。

かつてここまで丁寧に設計された弁当に私は出会ったことがない。

俵ひとつ分の米を口に運ぶ。

しっとりとしていて滋味深い甘さを感じる。

上に振りかけられた黒ごまもいい塩梅だ。

ごはんを食べて落ち着いたところで次は何を食べようか。

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ここで唐揚げに手を出してしまうのはコドモだ。

そんなことをしては後半ごはんのペース配分が狂ってしまう。

ここはタケノコの煮物に箸をつけるべきなのだ。

バランをめくるとそこにはタケノコの煮物、思ったより量が多い。

普通こういう添え物はこぢんまりと申し訳なさげに添えられ我々はまぁ食べてやるか、程度の心持ちでそれらを口に運ぶのだがこのタケノコの煮物は違う。

とても上品なのだ。

シウマイ弁当という名目で弁当を買ったとして、もしこのタケノコの煮物がびっちり詰まっていたとしても私は文句は言わない。むしろ歓迎する。

酒のアテにもきっとぴったりだろう。

ああ、たまらない。

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ようやく鶏のから揚げに箸を伸ばす。

身がしまっており肉の旨味を強く感じる。味付けも濃すぎるわけでもなく、かといって薄いわけでもなくちょうどよい。

途端に強く空腹を感じる。

もう順序なんて考えちゃいられない。

自分の食べたいものを食べたいようにむさぼる。それが人間として、動物としてあるべき姿なのだ。

鮪の照り焼き、味が濃い。こいつは鮪だ。ごはんが進む。俺はごはんがススム君だ。白い飯のこと以外考えられなくなったススム君、愚直に愚かしく下品に飯を食らうのだ。ふと思ったがいつもより米の重量を感じる。何故だ。割り箸を観察すると他の割り箸よりもいくらか短く切り詰められているようだ。それが支点力点作用点的に作用して重みを強くしているのかもしれない。いや、気のせいか。全ては米の魔性の白が見せた幻覚か。米を噛みそれが喉をぐぐっと通るときの快楽は何物にも代え難い。それはやはり米じゃないとダメなのだ。メリケンのパンなんか食って得られるものではない。ごはんを食いすぎた。おかずとごはんの均衡が崩れてしまった。歪んだ美意識、知ったこっちゃない。次はたまご焼きだ。甘い。やさしい甘さ。小学校のとき給食がない日に母が持たせてくれた弁当のあのたまご焼き。思い出す。塩気が強いものを身体が求めている。シューマイ、シューマイシューマイシューマイ、私はシューマイを食べるのだ。実にいい。バランスがいい。シウマイ弁当に入っていていいシューマイは5つまでだと私は思う。これ以上多すぎても少なすぎてもいけない。5つで完結しているのだ。おいしい。おいしすぎてほっぺたが千切れて爆発四散して飛び散ったその破片を手のひらで掻き集める現象がおいしさだ。その破片をこねる。そして作り上げるは紅の塑造、粘膜でできたシューマイ。てらてらと艶めかしく光を湛える。この粘膜とあなたの粘膜が出会うことができたならきっとそれは素敵なことだと思う。あなたの粘膜が欲しい。粘膜でコミュニケーションをとりたい。私の粘膜が君まで伸びたら最高だ。会いたい。会いたい会いたい会いたい。官能相互のめくるめくコレスポンデンスに。素早く押し寄せて一瞬で何もかも奪い去っていく早駆けの波。粘ついたオブセッションの柔襞。散乱したステンドグラスに乱反射する君の意識。美しい。その閃光質の鋒に私はその先を見る。


ああ……

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シウマイ弁当は消えた。

私はシウマイ弁当があったそのひと時を追憶し空想のなかでシウマイ弁当の味の記憶を反芻するのだ。

甘く丁寧に煮つけられたタケノコの煮物、シューマイのグリンピースを口のなかで転がす。

愛おしげに転がしたグリンピースを舌でぱちんとつぶすとき空想がはじける。

そこにはただシウマイ弁当の非存在が存在するのみであった。