人をかわすのが苦手

大学も始まって大学生がうじゃうじゃしているキャンパスを歩かなきゃいけなくなったわけだけど自分は人をかわすのが苦手で困っている。前から人が歩いてきてそれをかわそうとするとなぜか相手が行こうとしている方向とかち合ってしまう。どうしてだろう。ある種の方向音痴なのかもしれない。人をかわす能力がない。ぶつかりそうになることもあるので端からみると当たり屋みたいなことをしているのかもしれない。他人とコミュニケーションを取りたいがために無意識にそういうことをしているのだとしたらすごく歪んでいる。不幸にも、というか幸いにも道でかち合ってお友達ができたとか彼女ができたとかそういうこともなくて舌打ちをされる程度に留まっている。自分はほとんど通行人の顔を見なくて相手がどういう顔をしてるのかとか知らないしどうでもいい。通行人には顔はない。笑う、叫ぶ、ときに耳障りな音を出す、止まる、無規則に無軌道に道を塞ぐ動く障害物である。一度奇声を上げながら久しぶりの邂逅を喜ぶ女子大生型障害物に挟まれたことがある。あの時は本当にどうしたらいいのかわからなかった。ゼルダの伝説にそういうトラップがあった気がする。A地点からB地点への移動の間のエンカウントはいらない。だから歩いているときに不意に声をかけられると驚いてしまう。ああ、あの人は今移動してるんだとか思っててほしい。移動の時のエンカウントが嫌いなのであいさつをしなかったらみるみるうちに友達がいなくなった。どこかにフォーカスするでもなくただどこでもない前を向いて通り過ぎた。あいさつをして友情ポイントをうまく貯められなかったから諦めた。未だに貯め方がよくわからない。そうした些細なコミュニケーションが関係の継続戦略なんだなと思うと鬱陶しくなる。授業が終わってボーッと座っていたら声をかけられた。あいさつ、目がバッチリ合ってしまったりとのっぴきならない状況のほかは自分からは滅多にしないがされるとやはり気分がいいものだ。自分は透明ではなかったと安堵するし茫漠とした関係の中で自分を見つけてくれたことに感謝したい。そういう人間は大切にしたい。そう思った。いい人だ。いい人になりたい。いい人になるにはどうしたらいいだろう。いい人になりたかった。それにしてもこの世がランダムエンカウントでなくシンボルエンカウントでよかった。ランダムエンカウントだったらもう外に出なかったはずだ。シンボルエンカウントは当たらないようにうまくかわすのがたいへんだけれど。