書評レポート「キャラクターとは何か


 この本は、「文化としてのキャラクタービジネス」を論じたものであり、よくありがちな「キャラクター文化論」やどんなキャラクターが売れるのかといった「キャラクターに関するビジネス論」ではない。著者が、このキャラクターがすごいんだ、などと口角泡を飛ばし熱弁するようなシチュエーションは一切なく、キャラクターを駆動させる社会とまた駆動させられるキャラクターについて様々な事例を挙げつつ淡々と述べていく。暑苦しいパッションを感じない分スイスイ読めるのだが、読んでいく途中でキャラクターはビジネスである、ときっぱり割り切っている著者の冷淡さが滲み出てくるようでその冷たさに凍えそうになってしまう。キャラクターとは誰かをわくわくさせるようなものだ、というのは私の言なのだがそれはおそらく文化論か文化論にもなれない一人相撲であるのだろう、キャラクターは何らかの商品を売るためのビジネスだと冷酷なまでに割り切っている著者とは仲良くなれそうもない。

 本書は四章立てであり、第一章は「キャラクタービジネスの近代史」と題し、日本においてのキャラクターの語られ方やキャラクター市場の変化について整理している。第二章では具体的なデータや数字を提示し、クールジャパン現象をはじめとするコンテンツ産業政策においてのキャラクタービジネスへの政策的なアプローチの流れを追っている。そしてキャラクタービジネスとは何であるのかを整理したうえで、「キャラクタービジネス」を捉えなおしていった場合、おそらくキーになるのはそれら個々の「コンテンツ」ではなく総体としての「プロパティ」であると提言している。第三章ではキャラクターの定義や構造について文学理論などを援用しつつ論じている。キャラクターを「意味」「内面」「図像」の三要素で腑分けした説明は非常に明快で分かりやすかった。第四章は主に市場に焦点を絞りコミックマーケットにおける二次創作のことや日本のキャラクター市場とアメリカのキャラクター市場の違いについて論じていた。四章最後の「ジャンプブランドの戦略」のところは駆け足気味でいささか尻切れトンボ感が否めなかったが。

キャラクターをビジネスという視点から見ていくのは新鮮であった。商品を売るためのキャラクターであるということは理解はしていたがそこに資本が絡んでしまうと純粋にキャラクターを楽しめないので自分はビジネスそのものにはあまり目を向けてこなかったので本書の議論は非常に役立つものとなった。ところで、キャラクタービジネスについて最近身の回りで起きた小事件的な出来事のお話をしたい。それは私が愛してやまないサンリオのキャラクター、「KIRIMIちゃん.」のことである。きりみちゃんはTwitterで日常的に、「今日はさむいね」などと日頃の出来事をつぶやいていたりする広報的アカウントを持っているのだがそこでまさにキャラクターはビジネスなのだな、といみじくも思い知らされる出来事が起きた。きりみちゃんはそのツイートのなかで「○○のグッズがでたよ」などとある程度ビジネス関連のことをつぶやきもするのだがそれはまだかわいいものである。ある日、きりみちゃんのTwitterできりみちゃんの友達である「あげみくん」というキャラクターが登場した。

f:id:jpmpmpw:20151021025531p:image

あげみくんはきりみちゃんと同じサーモンであり、油でカラリと揚げられたフライドサーモンである。頭に乗ったタルタルソースがとってもおしゃれであった。私は興奮した。きりみちゃんと同じサーモンであること。きりみちゃんの仲間たちはほとんど生ものなのに突然熱処理された闖入者の登場、あげみ”くん”であるので揚げ物の男性的なるもの、揚げ物のコノテーションなど色々思いを巡らせた。まさしく卒論にも役に立つ革命的なキャラクターが登場したとそのとき思ったのだ。しかしその期待は三日もしないうちに打ち崩れることとなる。あげみくんの登場した次の日にきりみちゃんの口からケンタッキー・フライド・チキン(以下KFC)とコラボする、という情報が発せられた。そう、あげみくんはKFCとのコラボのために生み出されたにすぎないキャラクターであったのだ!私は頭を抱えた。KFCできりみちゃんコラボが実施されフライドサーモンが発売されるという。きりみちゃんが広くコラボレーションしてたくさんの人々に認知されることは福音ではあるが、あげみくんがKFCのためのキャラクターであったことは私にとっては裏切りの告白ともいえるべきものでもあった。だってあげみくんが登場したとき私は本当にわくわくしたのだ。それがまさかビジネスライクなキャラクターでしかなかったなんて。私はこのときキャラクターは所詮ビジネスなのだというある種の諦観に似た感情を抱かざるを得なかった。しかしきりみちゃんはけして利得にまみれた汚いキャラクターではない。ビジネスだけではない、それを見た人間に安らぎ、楽しみを与えてくれる素敵なキャラクターなのである。私はキャラクターをこの本の著者のように所詮ビジネスと割り切ることはできない。私はビジネスだとまなざされるキャラクターの土壌においてきりみちゃんをビジネスでない場所に連れ出してあげる使命があるのだとそう思う。そういった意味でこの本は今の自分のポジションを確認させてくれるいいきっかけになった。私はきりみちゃんとどこか遠いところ、私たちを知る者が誰もいない場所、どこかに存在しているユートピアへ行くのだ。



教授に提出したレポートです。
論理よりも何よりもパッションが溢れていれば上等だと思うし自分もそういう文章の方が好きです。