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ポスト

10月終わりだけどまだ少し暖かい朝にドアの向こうから不穏な音がする。何かを差し込もうとしているが少し手間取っているようだ。

そうだろう、わたしの部屋のドアはリノベーション工事で色を塗り替えるとき投函口まで塗りつぶされてしまったためほんのわずかしか開かないのだ。

ざまあみたことか。

しかしそれは抑止力にはならず配達人の目的遂行を許してしまった。

わたしの住んでいるアパートには外に郵便受けがあるため滅多にドアポストは使わない。だが今回のようにアナクロで具体的な実行を持って訴えかけてくる人間をわたしは知っている。

電力会社だ。

奴らは外に各部屋の郵便受けがあるというのにわざわざ部屋のドアポストに電気料金払込票をねじ込んでいく。ドアの隣の電気メーターの検針をしなきゃいけないから直接ドアポストにねじ込んだ方が合理的かつ効率がいいというのは理解できるが奴ら狭い隙間に何かをねじ込むのが好きになってきているきらいがある。

1度開かないドアポストにしびれを切らしたのかドアの隙間に刺さっていたことがあった。あれはまさに刺さっていたという表現が的確だ。伝説の剣かと思った。ねじ込みジャンキーだ。

業務がクソつまんないのでそういうところに自発的に楽しさを見出し始めているように思える。

そもそも電気使わなきゃ生きていけないのに電気代払わなかったら電気止めますよとか脅迫である。よく聞く貧困ビジネスである。

バカ野郎、誰が払うか俺はアウトローだから絶対に払わない、とかやっていると電気を止められて制裁を加えられせせら笑われるのは自明の理だし困るのはこっちなので払うほかないのだがどうにかして一泡ふかしてやりたいと思う。

だからわたしは支払い最終期日までは電気代を払わない。その方がドキドキするからだ。電気を止められるか止められないかの分水嶺、瀬戸際、もし払わなければ冷凍庫のアイスが全部溶けてそりゃもうえらいことになるし結果として払うことになるのだがきっと電力会社の連中もこいつホントに払ってくれるのかとドキドキしているんじゃないかと思う。

電話がかかってきたこともある。

奴ら焦っている、そのときはこのささやかな抵抗が実を結びつつあるのだとちょっぴりうれしくなった。

電気を止められたことはない。だって絶対困るから。ゲームできないし。

あー絶対電気代払いたくない。