魔法はうけつけない

やっぱり魔法はあると思う。実際に私がその恩恵を受け、また被害を被ったからである。

 

その魔法はオタクと電機とアイドルの街、秋葉原にある。「〇〇は俺の嫁」と書かれたTシャツを着て歩く人はホントにそう思っているような面持ちで悠々と歩行者天国を歩き、アニメイトに吸い込まれていく。そんな人はけっこういて、好きなものは好きだ!という自己証明のシュプレヒコールである。電機屋は何に使うの?と聞いてみたくなるものばかり売っている。やたらと盗聴器が売ってる気がする。盗み聴きの快楽が売っている。アイドルは言わずもがなで、駅の改札を出ればAKBカフェが目に飛び込んでくる。今は総選挙の時期らしく、選挙(風)ポスターが店の前に貼り出されていた。父親が好きだと言っていたメンバーを探そうとしたが名前を忘れてしまった。探してどうするつもりだったのかも忘れたし、父親のアイドルへの偏愛も忘れたい。

 

魔法はアニメイトにも電機屋にもAKBカフェにもない。

 

 

魔法はメイドカフェにあった。

 

あった。あったのだ。この目で見たし友人も確認している。

 

ビルの4階、@ほぉ〜むカフェ。「@ほぉ〜む」の「〜」の部分にメイドさんが寝っころがってにゃんにゃんとか言ってそうである。言っててほしい。足を踏み入れた。

 

入店するなり「お帰りなさいませご主人さま♡」と迎えられ俺はご主人だったことを思い出す。丁寧にカウンターに通され、システム、ではなくお作法の説明を受ける。メイドさんが嫌がることはしない、他のご主人さまの迷惑になるようなことはしない。彼女らが嫌がることをするというのはまったくもってありえない。しかし他のご主人さまと聞いて、彼女らは他にもご主人さまがいるのだとちょっぴり切なくなる。

 

別のメイドさんがお水を持ってきてくれた。聞けばこのお水は「めいどうぉ〜た〜」なるものらしく、地球から離れた惑星(名前は失念)で採取したものらしい。心なしか甘い。いちごのフレイバーであった、気がした。

 

めにゅ〜を見て俺は「あいちゅカフェオレ」を注文する。気分は悪くない。最高である。友人は「みどりのしゅわしゅわ」を頼んでいた。いいチョイスだ。

 

「最高すぎる」

その言葉で我々のこの状況、気持ち、えもいわれぬ高揚感を称するに充分だった。これ以上飾りをつけると野暮である。言葉はもう既に表現しえているのだから。

 

メイドさんがうやうやしく我々に飲みものを持ってきてくれる。友人の「みどりのしゅわしゅわ」はきれいな緑色で、二度寝したとき見た夢のようにしゅわしゅわしていた。

 

口をつけようとするとメイドさんがころころとはずむ声で我々の動きを止める。このままでも充分おいしいのだが、どうやらメイドがさらにおいしくなる魔法をかけてくれるらしい。魔法の登場である。

 

「萌え萌えきゅん♡」

魔法の呪文である。メイドさんがかけてくれるのを今か今かと待っていたら、ご主人さまも、となぜか我々も魔法へと誘われた。儀式だ。そのときのことはあまり覚えていない。だがメイドさんが両手で作ったハートの形は今でもくっきり思い出せる。

 

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魔法はかけられた。やはりかけられたもののほうが味も良くなっているような気がするし、栄養も800倍になったような気がする。飲み終えるとスッと頬を涙がつたったような気がしていた。

 

つつがなく最高のひと時は終わる。最高であることがあらかじめ約束されあたかもそう組み立てられていたかのように。思い出せる時間はファンタズマゴリア、幻想の万華鏡であった。メイドさんが我々に、そろそろお出かけの時間であることを別れ惜しげに伝えてくれた。たしかにそろそろお出かけの時間であったような気がしなくもない。後ろ髪をひかれる思いで店を後にした。

 

帰りの道中はお互いに最高だったなとひたすら言いあっていた。多幸感に溢れていてβエンドルフィンとか脳内麻薬がドバドバ出ていた。

 

家に着くとどうにも不快感がある。脳内麻薬が切れたか、というとそういうわけでもない。その不快感は形をとって現れたからだ。

 

下痢が止まらないのだ

 

ドバドバと滝のように、さっき出てた脳内麻薬くらい出ている。

 

 

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おかしい。どうにもおかしい。変なものは食べていないし俺はメイドカフェで「ちゅめたいカフェオレ」を飲んだだけだ。

 

そこでふと思い至る。これは魔法によるものなのではないかとメイドさんがドリンクにかけた魔法によるものではないかと。それは次第に揺るぎないものとなる。

 

俺は前回メイドカフェに行ったあとも同じく腹を下していたのだ。そのときは昼に食べた古くなって液状になったガムが原因だと思っていたが、魔法の仕業だとすれば辻褄が合う。魔法のせいである。共通項を見つけはじめる。

 

「ちゅめたいカフェオレ」に魔法がかかっていなければこんなことにならなかったはずなのだ。だからといってメイドさんを恨むのはお門違いである。メイドさんに罪はない。罪があるとすれば魔法を取り込み身体の一部とすることができない脆弱な俺の身体である。メイドさんが俺のためにかけてくれた魔法は素通りして出ていった。悲しい。悲しい。

 

魔法アレルギーなんだと思う。だから魔法を克服するためにもメイドカフェにもっと通い詰める必要がある。AMEXのクレジットカードに似た会員カードがブラックカードになるまで。俺は魔法に中毒している。

 

数日経った今も腹を下しており腹痛は止まらない。魔法がお腹で乱反射して俺を苦しめる。

 

今は夜行バスの中 はやくたすけてくれ