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アポロ11号

母親から7月20日は何の日でしょうというメールが届いて、皆目見当がつかなかったためネットで検索して「アポロ11号が人類史上初めて月面に着陸した日」というふうに送ったら違うと言われた。

まぁたしかに母親は人類史に疎いし、全部どうでもいいというスタンスを決め込んでいるため月面着陸の喜ばしさをあらためて息子に伝えて人類の偉業を啓蒙させるということをしたかったわけではないはずだ。返信したのが夜遅くだったのでおそらく寝ていたのだろう。次の日メールが届いた。

 

暑いね!

 

生きてますか?

 

明日はもっちゃんの、誕生日です👋

長生きしようと思います。

 

 

母親の誕生日だった。

 

そういえばそうか、と思い出したし、それまで忘れていたことにも気がついた。

 

友達の誕生日は10月25日、5月8日。先輩の誕生日は10月26日。友達や仲のいい人間の誕生日は覚えていたのに1番近しい人間である母親の誕生日を忘れていた。

 

メールを読んで母親に電話をかけたらなんだかホッとした。忘れていたことを謝った。そしたら東京の仕事は楽しいか、とか何か足りないものはないかとかいろいろ矢継ぎ早に心配をされてなんだか心地よくなった。

インターン先であるバーグハンバーグバーグは目黒区にあるので、目黒区のバラバラ殺人事件のことをやたら気にしていたが息子の犯行じゃないことを知ると安心していた。公園の木にチェーンソーの跡があったためまさかあいつじゃないかと父親が言い出したらしい。人を殺すと思われているようなので信頼はされていない。

 

何歳になるのかと尋ねたらもう50歳になるという。

 

「もう50歳になるんよ、すごいじゃろ」

と言われて、涙が出た。なんだかやるせなくて。素直にすごいと褒めるのも数値の大きさを褒めてるようで違うし、すごくないと言っちゃうのも母親の50年を否定して暗に死ぬのが近づいたと含みを持たせてしまうのが怖いので、なるほどねー、とわけのわからない相槌を打った。

 

誕生日プレゼントは何がほしいか聞いたら、

「はぁ(もう) ええよー どうせすぐ死ぬんじゃけえ」

というにべもない返事。

そのあとはもう欲しいものを聞いても「死ぬけえいらん」の一点張り。

 

長生きしようと思いますって言ってたのになんなんだ。