地獄くだり

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仕事で大分県に行ってきた。県が「おんせん県」としてPRキャッチコピーを打っているように街なかに温泉がボコボコ湧いていた。道路を走るクルマから外を見ると遠方で煙がもうもうと立ち上っており、火事かと思ったら温泉の蒸気だという。そんなことある?あまりにも湧いてるので家に温泉を引いてるところもあるそうだ。うらやましい。

 

大分県の鉄輪地区には温泉が湧きすぎて地獄と呼ばれる観光資源がある。海地獄、血の池地獄といった熱湯、噴気がヤバい湯だまり、それらを地獄と呼んでいるらしい。観光地になった『地獄めぐり』がそれである。昔はほっといても温泉がめちゃくちゃ湧いてきて畑や農作物がダメになってしまうので忌み嫌われていたそうだ。現代だったら温泉が出てきたらうれしすぎるがこと昔においては死活問題である。

観光地にあった資料によると温泉が湧いて畑がダメになったので年貢の控除を願い出た村人がいた記録が残っているらしい。そりゃ地獄と呼びたくなる気持ちもわかる。

 

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いくつか地獄をめぐった。これが海地獄。体力が回復しそうなビジュアルだが98℃ある(死ぬ)。青くてきれい。

 

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かごで吊るして温泉卵を作っていてとてもよかった。地獄で卵を茹でている。

 

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ここの売店で売ってた鬼のマスコットがかわいかった。MECHA LOVEらしい。買えばよかった。いつかこうなりたい。

 

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赤い湯だまりが特徴である血の池地獄にも行った。門の屋根に「地獄の入り口」と書いてあり物騒である。入り口をくぐり、いざ地獄へと相成ったが柵の隙間から赤い色の血の池地獄がちょっと見えたのでもうそれで満足して帰ってきてしまった。赤いね〜、という確認ができた。入り口で引き返したが1番地獄っぽいところではあったのだ。

 

近くにあったレストランは極楽苑という名前で、50メートルほどの近い距離で極楽と地獄が同居していた。極楽(天国)と地獄は相対する。組んず解れつだが、肌感として語られることが多いのは地獄であるような気がする。

ダンテの書いた「神曲」の地獄篇は内臓出たりでなんか惨くてすごいし、芥川龍之介の「杜子春」も地獄で蛇に襲われたりしている。幸せなことより惨たらしいことを考えるほうが楽しいよね〜という気持ちがとてもわかる。地獄が階層ごとに分かれていて異なる責め苦を受けるというのは考えてて楽しかっただろうなと思う。地獄が物語のモチーフになっているものはだいたい登場人物が何か苦しいものを克服したり立ち直ったりする。いわば克服と再生の物語だ。みんな地獄をすごくがんばる。えらい。克服して平生の現世、または極楽へ。たとえ極楽に行ってもしかしその先はあまり語られない気がする。それに極楽の何が楽しくて幸せかは正直そんなに興味がない。地獄のほうがまだ馴染みが深い。つらい毎日を「地獄だ」と嘲ってみんながんばって生きている。「極楽だ」なんて口にするのは温泉に浸かったときくらいしかない。

 

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地獄蒸しプリンはおいしかった。温泉の蒸気で蒸したものを「地獄蒸し」というらしい。名前がおもしろい。

 

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保養所の温泉に入った。とてもよかった。羽虫がいっぱい浮いていた。

 

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取材先がある大分県佐伯市では船の進水式を見た。進水式とは造船所が作った船を初めて水の上に浮かべる儀式のことらしい。全然知らなかった。地元住民が集まり、造船所の人がスーツを着てかしこまり、厳かだがみな浮足立っている雰囲気を感じた。

 

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船は海に向かう。テープをなびかせぐんぐん進む。そのまま客に納品するのだろう。地元の中学校の吹奏楽部による送り出すテーマ曲が「宇宙戦艦ヤマト」だったのはさもありなんという感じだった。迫力あってよかった。生まれて初めて見た。

 

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出航のときに飛んでいった風船が上空を漂っていた。いつ落ちてくるのか気になった。落ちたらゴミになるのでそのままなくなるやつがあればいいのに。

 

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周りは海だった。取材はつつがなく終わった。現地を案内してくれた人も同行者も優しくて安心できた。食べ物がおいしかった。

 

 

仕事でいろんなところに行けるのは楽しいがものすごく疲れる。移動もそうだが人と話すのは自分が思っているよりエネルギーを使う。2日経っても疲れている。やることはたくさんあって、テーブルに山積したやらなくちゃなこととやるべきことがゴロゴロこぼれてイヤな音を立てる。でもやるしかないので「地獄だ」とか言いながらがんばるしかない。

 

 

おわり