夜の点描

日付が変わったころに仕事を終えて、だらだらとスマホをいじったり会社のスピーカーで音楽を流したりしているうちに1時間経って、自転車に乗ってのろのろと家路につく。

 

道中、うずくまる人たちや、帰るタイミングを見失った人たちが何人かで笑い声を上げているところを横切る。夜はみんな無防備になるようで、後ろから自転車が迫っているのにほとんど気づかない。人を轢いても怒られない世界だったらいいのになと思いつつ彼らの横をすり抜ける。

 

23時の風景と深夜1時の風景はずいぶんと違う。夜半の1時は店の明かりも落とされて人もまばらで、みんな夜の暗がりに消えてしまったようだ。消え残りの人間が自転車の進行の邪魔をする。よもや自分が轢かれて死ぬなんて考えてもいないだろう。

 

腹が減る。何も食べていない。だけどコンビニではなくてどこか店で済ませたい。幸い自宅の近くは店がわりとあるので記憶を頼りにうろうろする。

 

いつも遅くまでやっている中華料理屋は早仕舞いし、照明が落ちた店のガラス窓に自分の顔が映っている。どこか店はないかなとスマホをいじっているうちに1時半までやっているラーメン屋が閉まる。どうしようもないのでチェーン店が多い駅前に向かう。

 

松屋かSガストかで迷う。牛めしか竜田揚げ丼か、幸いどちらも味噌汁がついているのでマイナス要素はない。なぜか若鶏の竜田揚げを売りにしているSガストに向かう。

 

店内には誰もいない。券売機で商品を選ぶ。後ろに並ぶ人間がいないのでゆっくりと何を食べるか考えたあと「マヨガリ若鶏竜田丼」を選ぶ。400円。チキン南蛮とどっちにするか迷った。

 

店員が食券を取りに来る。経験上深夜は横柄な接客をされることが多かったので身構えていたらとても丁寧だったのでホッとする。水を飲みながらカウンターに置かれたメニューを眺める。Sガストは竜田揚げからハンバーグまでバラエティに富んでいてすごい。調味料棚に置かれたごましおって誰が使うのかな。

 

注文した「マヨガリ若鶏の竜田丼」が届く。マヨネーズとガーリックだからマヨガリなのだ、ガリマヨのほうが若干語呂がいいはずなのになと思っていたら店員が遅れて味噌汁を持ってきた。味噌汁にはネギが散らされていて、具がワカメのほかに何もない松屋の味噌汁よりは豪華だ。

 

味噌汁はなんかこっちのほうがうまい気がする。店内で出汁をとってるらしい。忙しいのにすごい。マヨガリ竜田もおいしい。味が濃いマヨネーズにガーリック、サクサクの竜田揚げ、全部おいしい。添えられたもやし炒めにニラが入ってるのもうれしい。400円で深夜においしいやつが食べられてすごい。酒を飲むつもりだったが、誤魔化しのように飲んでもつまらないので見送る。

 

実家の周りは山で、1時過ぎになると野生動物が出るかもなので怖くてあまり外に出れなかった(出る用事はないが)。未だに夜遅くに明るい店に入ると文明だな〜と感じる。腹を満たすには全然足りなかったけど我慢して自宅に帰った。明日は何を食べるか考えている。

 

あっという間に時間が過ぎて、やるべきことを完遂する前に夜が来て、朝が来て夜が来てまた朝になってという繰り返しをしている。何かいいことがないかなとずっと思っている。朝起きて何か連絡が来てないかスマホの通知を見るのが楽しみという気がする。ログインボーナスだ。電気を消す。冬用のベッドシーツを取り替えなきゃな、と思いながら枕に頭を沈める。目を閉じる。