削ぎ落とすなら

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1ポンドは約453グラムだ。


だから店で出る1ポンドステーキはそれなりに大きいし、食べごたえがある。1ポンド分の肉を、と言ってもピンとこないのは我々にそもそも単位の馴染みがないからだ。


おととい、映画を観た。7つの大罪になぞらえて行われる殺人事件を刑事たちが捜査して謎を解き明かす『SEVEN』という映画だ。大罪のひとつである「暴食」は胃が破裂するまで食べ物を食べさせられて死に、「高慢」は美人モデルが自らの顔をズタズタに切り裂かれて死ぬ。その中に「強欲」として殺された悪徳弁護士のシーンがある。ここが興味深い。


「強欲」は身体の肉を1ポンド分切り出すというもので、お腹の贅肉を削ぎ落とされた弁護士は失血死した。犯人は2日に渡って、弁護士にどこの肉を切るか選ばせていたという。でっぷりと太っていたので大丈夫じゃないか? と思ったがやっぱり死ぬようだ。

 

もし同じ状況に置かれたら自分はどこの肉を削ぎ落とすだろうかと考えてしまう。お腹周りの贅肉はまさにもってこいだが内臓が近いので弁護士同様に失血死してしまうだろう。手や足も嫌だ。手首から先を切り落とせば453グラムは超えそうだなと思うが、のっぴきならない状況とはいえ手を失うのは怖い。もし自分が女性だったら乳房を切り落とせばよさそうだ、なんて思うが心臓が近いので血が止まらずに倒れてしまいそうだ。


いろいろ考えたが、自分の中ではお尻の肉を切るという結論に至った。お尻ならたぷたぷとした脂肪があるし、もし犯人との賭けに勝ったとして、予後もよさそうだしその後の生活に支障が出なさそうだ。片方ずつ200グラム弱切り落とすならなんとかいけるかも、という気もしてくる。心臓も遠いので止血はしやすそうだ。だがお尻から血を流して助かるとは切羽詰まった場面とはいえどいささか間抜けである。


究極の選択を何とかやりおおして命が助かったとして、犯人はその1ポンド分の肉をどうするのかというのも気になる。まさかそのまま捨てるわけでもあるまい。何らかの方法で恐怖のリサイクルをするはずだ。


青木ヶ原樹海や、それらにまつわることをまとめた『樹海考』という本を先ほど読み終えた。その中に拷問や殺人を日常的に行なっていたMという元犯罪者のエピソードが登場する。Mは筆者に、


「拷問しても心が折れない相手をおとなしくさせる方法ってなんだと思う?」


とクイズを出した。劣悪な環境でひたすら放置するのかなとか思っていたら、

 

「そういう時はな、拷問相手の肉を食ってやるんだよ」

 


と予想だにしない回答が飛び出して心底恐ろしくなった。相手の目の前で自分の肉が生で食われているところを見せると、どんな奴でもヘタッと心が折れてしまうそうだ。これはすごい、絶対に思いつかない。


話を戻すが、もし1ポンドの肉を切り落として命が助かったとしても、犯人に目の前でその肉を食べられたらもう完全に脱力してしまうと思う。安堵の気持ちや生還の希望は一気に消え失せ、自分の身体が食べられてしまうという新たな恐怖にもだえ苦しむしかない。正気の沙汰ではない。絶対に嫌だ。


今後の人生でどの部位を切り落としたらいいかなんて選択したくもないし、そういうことに巻き込まれるのも本当にごめんだ。刃物を自分の身体に突き立てる場面なんて想像したくもない。だが興味はあるのでこれだけは聞いておきたい。

 


もしあなたが同じ選択を迫られたとき、どの部位を削ぐか?