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1861

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知らない天井に押しつぶされそうになる。
知らない知らない絶対知らない見たことないなんだこの引っ掻き傷のような模様、気が狂った患者がめちゃくちゃ引っ掻いた痕? だとしたらとてもアーティスティックで現代美術的だと思う。でも俺はこの模様を見たことがあって、それはきっと昔のことで、はじめての場所なのに既視感と未視感が同時に起こって自分がなんだかわからなくなって脳味噌がバターのようにとろけてくる。
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この天井はおそらく小学校の教室の天井の模様だった。思い出した。授業が退屈だったから上を向いてぽかんと口を開けてあの引っ掻き傷を数えていた記憶がある。すべて数えきる前に先生に止められ何をしてるのと問い詰められボーッとしてましたと答えた。天井の模様の数を数えてましたと言わなかったのはそう言ってしまうことで周りの友達が天井の模様を数え始めてしまうことが非常に嫌だったからだ。このささくれた遊びは自分だけのものにしたかった。もっとも数える人は自分のほかに誰もいなくて、自分も数を数えきらないうちに小学校を卒業してしまった。忘れてきた少年時代の破片を拾い集めるのは今しかない。

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数えるのに40分くらいかかった。正確ではないしおそらく誤差があるだろうが、天井の模様は1枚「1861個」あった。
部屋の天井には7×11枚あるので、1861×77で、全部で「143,297個」ある計算になる。私たちは143,297個の傷をベッドの上で虚ろに見つめているし、そこにある夥しい傷たちもまた私たちを見つめ返している。人が狂うときってきっとこんな瞬間だ。143,297の傷たちが上から自分をせせら嗤っていると思うと身体中を引っ掻いて自殺したくなる。途中で79の次がわからなくなった。混乱した。もう駄目かとしれないとベッドの柵に頭を打ちつけた。だが数えているうちに無数の引っ掻き傷が上から降ってきて自分の身体を透過していくようなそんな気持ちになってとても愉快であった。その瞬間自分は巨大な濾過器であったのである。
少年時代の歪なパズルが完成した。俺はまだ小学生でいられる。大人になるのは簡単だが子どものままでいるのはずっとずっと難しいのだ。