這い寄る混沌

じめじめしてあらゆるものが肌に張り付く粘着質の季節、息をするのもめんどくせぇーって感じです。

雨が降り止んだ夜って少し不気味ですよね。

路面の水たまりに反射した街灯の光が風もないのにゆらゆらと揺らいだり、車が通り過ぎたのちの無音、一瞬の静寂、密度の濃い空気も伴い不気味さを増幅させます。

そうした不気味を楽しんでいたときでした。

上の階から音がします。

これは毎度のことで、深夜1時過ぎになると上の階からドンドーンと鈍い足音みたいなのが聞こえてきます。

神経質になるほどうるさい音ではなくて、等間隔で鈍い軋みが聴こえてきます。

大学生カップルが軋むベッドの上で優しさを持ち寄ってるならこちらもエレクトリカルパレードとか流して対抗できるのですが、自分はアパートの4階に住んでいるのでそれはかないませんしカップルもいません。

自分の住んでいるアパートは4階までです。

5階の住人は存在しません。

上は屋上です。

そして屋上は夕方4時から電子ロックで閉鎖され人が立ち入ることはできません。

なのに音がするのは決まって夜です。

どうしてでしょうか。

誰もいないし存在できない場所から音がします。

そういえば自分の住んでるアパートの裏はお墓でした。

霊的なものが干渉しているのでしょうか。

幽霊の正体見たり枯れ尾花、とはいいますが殺風景なウッドデッキに草木は生えませんし動物的なものの干渉も考えにくいです。

実際に確かめにいけたらと思うのですが忘れられないものを見てしまったらと思うと踏み切れません。

そんな夜、寝っ転がって本を読んでいました。

そしたら、出ました。

ゴキブリが。

ゴキブリが出ました。

恐怖します。

身体が硬直し何をしたらよいかわからなくなります。

その間にゴキブリはゆっくりと、かつ俊敏にこちらへ近づいてきます。

動かない頭で出した結論はなにか薬剤をゴキブリにぶち撒けることでした。

しかしながらキンチョール系の対ゴキブリ装備は家にはないので、網戸に虫コナーズという網戸に虫が来ないようにする薬剤を噴霧しました。

網戸に虫を来ないようにしてくれる、という効果はいささか非力のように思えますが大抵の羽虫はこれで死ぬのでそれなりの信頼をおいてました。

しかし、ゴキブリは死にません。

憎らしいほどタフネスです。

触角が濡れたのか少し動きは鈍りました。

ゴキブリはもうあっちゃこっちゃ動き回ります。

私はそれを先取りして効かない虫コナーズをぶち撒けます。

そうするとゴキブリはなんと驚くことにこちらへ向かって突っ込んできました。

逃げを打つかと思っていた私はさらに恐怖しました。

その敏捷さで私の足を這い上がろうとしてきます。

もうワーッってなってめちゃくちゃに足を振って振り落としました。

振り落とされたゴキブリはなお攻めの姿勢を崩さずこちらへ突進してきます。

もう逃げられない。

私は近くにあった読み終えた雑誌をゴキブリの上に被せてその上に重い辞書を落とすという影牢ばりのコンボを決めてゴキブリの息の根を止めることに成功しました。

今際のド根性を発揮されたらすごくイヤなので念には念を入れて4回くらい上から辞書を落としました。

買ってからろくすっぽ使ったことのない辞書が初めて役に立ちました。

知識の重みが物理的重みでゴキブリを潰すとはもうなんかすごいです。

汗をかいてきました。

ある意味命の駆け引きですから。

息を整えたのちに雑誌をめくるとぺちゃんこになったゴキブリがそこにいました。

うわ、ぺちゃんこだ、と思ってすごくイヤだったのですがよく考えるとそこにぺちゃんこのゴキブリが存在してないことの方がもっとイヤでヤバいのでぺちゃんこでいてくれてよかったと思います。

ゴム手袋で処理したのですがその死骸をどうするか迷いました。

トイレに流すといつの日か帰ってきたぜ地獄の底から的再登場をされそうでイヤなので、ゴミ箱に捨てて外に捨てに行くことにしました。

やっぱ外は不気味でした。

部屋に戻ったら戻ったでゴキブリの弔い合戦が始まったらどうしようと気が気じゃありません。

私が殺したゴキブリはブラックキャップとかたくさん置いてたにも関わらずそれにかかることなく死線を潜り抜けてきたおそらくエリートですから、もっとやべぇやつが出てくることも十二分に考えられます。

あぁもう本当にヤバい。

寝てる間に鼓膜食い破られて耳に侵入されたらどうしよう。

とか思います。

何より私が一番恐怖を感じたのは手負いにも関わらずこちらに食ってかかるというゴキブリのその姿勢です。

もし自分がゴキブリサイドならば間違いなく逃げを打つだろうと思うのですがそのゴキブリは逃げることなく二度も立ち向かってきました。

逃げることよりも立ち向かうことを選択し、自ら、ひいては一族の存続を脅かす危機を排除するために火の玉が如く突っ込んできたゴキブリは間違いなく私を殺すつもりだったということが容易に推測できて、そのゴキブリの本気(マジ)さが本当に恐ろしかったです。

私は結果的にゴキブリを始末しましたがその攻めの姿勢にひたすらに圧倒され、試合に勝ったが勝負に負けた状態でした。

自分自身の矮小な行動アルゴリズムにゴキブリを当てはめてしまったばっかりにこんな声出るんだと自分でも驚くような声を出してしまったりともうしっちゃかめっちゃかにされました。

自分の足を這い上がろうとするゴキブリの意味わかんないガッツに怯え、恐怖しました。

もう本当にやめてほしい。

とりあえず今後の対策としては対ゴキブリ装備を充実させなければなりません。

それと奴らが明確な殺意を持って行動しているということをけして忘れてはいけません。

覚悟しました。


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ちなみにこれがゴキブリにトドメをさした辞書です。

語法・受験に強い!
現代英語に強い!
とありますがゴキブリにも強くてちょっとウケました。