部屋のなかの生態系

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部屋の中で豆苗がすくすくと育つ。俺と同じ部屋で同じ空気を吸い、豆腐パックの鉢植えのなかでカルキ臭い水道水を吸収してぐんぐん伸びる。うららな春の温気にあてられて最近伸びがよくなってきたようだ。一度はすべて刈り取ったのに、包丁でカットした切断面から、指で引きちぎった茎からも新たな緑が顔を出す。みずみずしい生命力にうっとりとする。

 

会社に行き、家に帰ってきてから豆苗の伸びをチェックするのが毎日の楽しみになっている。今日はどれだけ伸びたのか、家主不在のあいだに行われる若い緑のめくるめく生の営みに胸を踊らせている。誰もいない、時間の止まった部屋のキッチンで豆苗のみが健気に背を高くする。自分と同じ時間軸を共有できているようでうれしい。充分に伸びたら切り取って夕飯のおかずにする。そうしたらまた新しい豆苗をスーパーで買ってくるつもりだ。

 

 

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こちらは大学生3回生のときに撮った写真。部屋でほっといたじゃがいもとさつまいもから芽が出てきていて、なんだかとてもきれいだったので写真を撮った。さつまいもの芽はビビッドな赤色をしていて、柔らかに広がった小さな葉の裏は白くてかわいいなと思う。じゃがいもは内部から生命力が噴出するかのように芽を伸ばし、なんだか悪性腫瘍のようでグロテスクに見えるが、でこぼこでいびつな美しさを感じる。地味で朴訥な芋たちがこのような美しい姿をその身に隠していたのかと思わずはっとさせられた。敬意を払う。

 

とてもきれいだ。

 

 

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ほっといて3か月くらいだっただろうか。野菜類を保管していたダンボールを覗くと鮮やかな赤が目にとまった。自分が部屋で恨みつらみをブログに書いたり、意味のない課題をやったりと無為な時間を過ごしているあいだにも芋はすくすくと伸びていたのである。腐ったりカビが生えたりということもなく健やかに。これらの野菜は捨てるのも忍びなかったので芽を切り取ったのちに食べてみたが、どこか魂が抜けたようで味気なかった。じゃがいもは栄養分を吸い取られたのかスポンジのようにくしゅくしゅになってしまっていた。

 

豆苗もそうだが、自分は何もない部屋の中で起きるささやかな変化を楽しんでいる。水を取り替えてやったり、芽を撫でてみたりと愛しいそれらをいつくしむ。自分以外が感知できない部屋のなかで、ゆっくりと育っていく姿を見るのは楽しい。まるで親になった気分だ。自分以外も部屋のなかで生きている。

 

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さっきふと野菜の保管棚を見やると、銭湯でもらったにんじん(わかんないけど配っていた)に白いカビが生えていた。いったいどこからやってきたのだろう、自分が部屋にいるあいだにもゆっくりと表面に胞子をめぐらせていたのかな、なんて想像するとかわいくなってしまう。にんじんの先端部分はカビに水分を持っていかれたのかしなびてしまっていた。

 

これからも白いカビは広がり続けやがてにんじん全体を覆うだろう。腐臭がしてきたら捨てるが、あたたかく見守ってやりたい(洗えば大丈夫そうなのでおなかが減ったら食べてしまう)。

 

おわり